道内で個人、団体が発行されている文芸誌を紹介します。
逍遙通信
『逍遥通信』について
澤田 展人
2016年8月5日、創刊。澤田展人が編集・発行する個人文芸誌である。誌名には、気ままな散歩をしているときに頭に浮かんだことを便りとして知人に送る、といった意味を込めた。創刊号には、久間十義と外岡秀俊のエッセイ、澤田展人の小説を掲載した。
現代に生きることの痛み、苦しみと格闘する作品を載せ、読者とともに考えたい、という意図から自由な寄稿を呼びかけている。徐々に寄稿者が増え、近刊の第9号は寄稿者30名、ページ数がおよそ460ページとなっている。第2号、第3号発刊時には、支笏湖畔に居を構える鹿田幸年宅に執筆者が集まり、徹夜の合評会を行った。新型コロナ感染が広がってから合評会を中止していたが、現在、復活の道を探っている。
同人制をとらず、読者に任意のカンパを呼びかけることで制作・発送の費用を賄っている。読者の輪が広がり、現在、カンパを財源とする発行が実現できている。
創刊号から欠かさず作品を寄稿していた外岡秀俊が2021年急逝し、翌2022年に『逍遥通信第7号 追悼外岡秀俊』を発行した。外岡の仕事に注目していた全国の人から入手の希望があり、読者が増えた。外岡が本誌に執筆した作品は遺稿集『借りた時間、借りた場所』(藤田印刷エクセレントブックス)として単行本化された。
「逍遙通信」
第9号 2024年5月
寄稿作品数に応じて柔軟にページ数を増やしているので長篇作品を掲載することが可能になっている。先日逝去した友田多喜雄の自伝的な長篇連作詩「幼い日々」、北村巌による小林多喜二・島崎藤村・新宿中村屋をめぐる評伝的作品、澤田展人の長篇小説など長尺作品がこれまでに掲載された。
分断と敵対、貧困と差別が進行する世界に文章表現によって抗い、よりよき生のあり方を希求する作品を掲載することを本誌発行の意義と考え、今後とも広く寄稿を呼びかけていきたい。
(「逍遥通信」編集発行人)
詩誌「フラジャイル」~詩誌「青芽」後継~
詩誌「フラジャイル」
~詩誌「青芽」後継~
柴田 望
小熊秀雄の詩友小池栄寿に師事した富田正一が復員後「これからは心の時代だ」と決意し、1946年に詩誌「青芽」を創刊、以降72年間発行を続けた。「青芽」後継誌として2017年12月に詩誌「フラジャイル」創刊。旭川の詩文化を大切に次の世代へ運ぶ「こわれもの」の荷札。富田正一の想いを引き継ぎ、「しがらみのない自由な創作の場」を築くことを目標に、創刊メンバーは柴田望、木暮純、二宮清隆、山内真名。2号から6号までと14号に吉増剛造氏の北海道講演を収録。2024年に20号発行までの7年の歩みで、同人参加は小篠真琴、荻野久子、冬木美智子、菅原未榮、星まゆみ、中筋智絵、鷲谷みどりなど道内のみならず、金井裕美子、福田知子、佐波ルイなど全国に広がる。年3回発行。20号(記念号)はゲストを含め31人が参加。20代30代の詩人の割合も多く、年齢層が幅広い。那須敦志による斉藤史の戯曲連載、漫画家日野あかねの作品掲載、岡和田晃による「現代北海道文学研究」などゲストも多彩。朗読イベントの開催や歴史市民劇への出演、北海道の詩人の仕事を現代に伝える活動(20号には俊カフェで開催した古川善盛についてのトークイベントを収録)。2021年よりコトバスラムジャパン北海道大会の開催を協力。SNSやYouTubeを活用した告知や海外へも及ぶ交流展開。謹呈・販売用の通常版の他にバーコードの付いたオンデマンド版を平行して発行し、Amazonや楽天ブックスでも販売。2023年よりアフガニスタン国内における詩作禁止令に抵抗する国際連帯の活動を開始。ソマイア・ラミシュの詩・評論を掲載。13号より表紙写真を写真家の谷口雅彦氏が提供。
「フラジャイル」
第20号記念号 2024年5月
発行所:フラジャイル党 旭川市春光6条2丁目5番8号
発行・編集人:柴田望
参加者:(文中以外で) 若宮明彦・吉成秀夫・澄川智史・木内ゆか
・うのしのぶ・福士文浩・澤井浩・川嶋侑希・清水俊司
・枝松夏生・吉田圭佑・島つくえ・高細玄一・丁章
・土師一樹・諸橋亜桜・廣石万葉 他
(「フラジャイル」発行・編集人)
俳句同人誌の自由と孤独
俳句同人誌の自由と孤独
五十嵐秀彦
〈アジール 【独 asyl】 民俗学でいうところのいわゆる「避難所」、日本の歴史では網野善彦の「公界」、つまり中世の「かけこみ寺」をイメージしていただければよいでしょう。俳句の世界で同人誌はアジールなのかもしれません。〉
俳誌「ASYL アジール」は2021年暮れにこんな文章で始まる創刊準備号を出し、2022年に創刊号を出しました。以降は季刊としながら労力と気力が不足していて毎号遅刊続きです。同人は、青山酔鳴・安藤由紀・五十嵐秀彦・Fよしと・彼方ひらく・近藤由香子・田島ハル・土井探花・村上海斗の9名(五十音順)による船出。創刊早々に同人の土井探花(千葉県)が2023年度現代俳句新人賞を受賞するという快挙があり、「アジール」の名がいきなり全国で注目されることになったものの、同人誌としてはきわめて弱体のささやかな冊子に過ぎません。
YLかつて「結社=俳壇」であった俳句の世界が、近年になって崩れ始めてきました。そんな時代の風を感じながら、あえてアナログの紙媒体として俳誌を発行したところに多少ゲリラ的な気持ちがあるのです。表現者として孤独と向き合う。これが組織に頼らない今後の俳人の方向性となって欲しい。それにはやはり主宰のいない同人誌がふさわしいはず。さて、どうなることやら。
「ASYL アジール」
6号 2023年12月
逢へないと知りたるままに花を訪ひ 青山酔鳴
雪だるま融けて滅びの神ひとつ 安藤由起
鉄砲百合ユイスマンスは生臭し 五十嵐秀彦
ペン先をいつも尖らせ春の雪 Fよしと
凍渡りでいだらぼつちが会ひにくる 彼方ひらく
繭となる逮夜降りつむ雪の音 近藤由香子
百年の春を賜る通知音 田島ハル
白蝶はみんな中古となりますが 土井探花
水温む敬語の混ざる距離感で 村上海斗
(俳誌「アジール」代表)