北海道文学館設立の趣意
北海道は、これまで開拓に急で、とかく文化的な事業を顧みるいとまがありませんでした。しかし、この百年の日本近代文化に果たした北海道の役割が、いかに深くかつ大きかったかは、いま改めて認識されつつあります。
明治百年を迎えて、散逸しつつある近代文化の諸資料を保存して後世に伝えようとする動きは、ようやく日本の各地の起こりつつあります。文学の面では、見事に完成をみた「日本近代文学館」はさておき、近代の文豪を記念する個人記念館などもそれぞれの郷土に設けられ、郷土が日本の近代文化に果たした業績について、次の世代の自覚を高めています。
ひるがえって、わが北海道の現状をみますに、郷土が生んだ文学者を記念することはもちろん、基本的な文献・資料を保存することさえ、まだ行われていません。しっかりした資料保管の設備がないままに、例えば有島武郎資料や文学の底辺を形づくる文芸同人雑誌などなど、北海道にとって大切な資料が散逸していく現状は、見るに忍びないものがあります。
この現状をかねがね憂慮していた関係者は、これ以上座視するに忍びず、四十一年秋に第一段階として『北海道文学展』を開催しましたが、今度、その圧倒的な成功のうえに立って『北海道文学館』を設立することになりました。その目的とするところは、早急に北海道関係の諸文学資料や関係諸物件を広く収集・保存し、研究と展示・閲覧に積極的な役割を果たすと同時に、各種の文学行事を催して文字どおり北海道の文学センターにすることにあります。それはとりもなおさず北海道、ひいては日本近代文化の研究と発展に大きく寄与することであり、この企ての実現に努力することにした次第です。
地域全体の文学的成果を一堂に集め、これを後世に伝えようとする動きは、まだ全国にない試みであります。全国にさきがけるこのわたくしどもの計画が、多くの方々の御支持と御賛同を得て、名実ともに誇るべき北海道百年の精神文化の殿堂となることを願うものであります。
昭和四十二年四月
北海道文学館
財団法人北海道文学館設立の趣意
北海道文学館は、昭和四十一年に開催された「北海道文学展」を契機として、昭和四十二年に設立され、散逸の危機にあった文学資料の収集保存を第一の目的として、文学資料の展示、文学散歩、文芸講座、講演会、刊行物の編集、刊行等、種々の事業を行い、二十年にわたって、北海道文学の振興に努めてきました。所蔵資料も十一万五千点に至り、札幌市資料館の一部を借用している現在の施設では、これらの資料を収容しきれなくなってきたほか、保存環境も十分とはいえず古い貴重な資料の損傷が目立ち始めています。このため空調設備等を完備した独立施設の建設が望まれており、既に「道立北海道文学館建設期成会」が結成され、道立文学館建設についての運動が始まっております。
このような気運の中で、現在の活動の中でも、任意団体であるため、その社会的信頼性を問われ、道内に分散している貴重な資料の収集が円滑に行えない面もあり道内の文学関係者のみならず広く道民の間で、現在任意団体である北海道文学館を財団法人とし、更に経済的、組織的な基盤を強化することが望まれています。
ここに、北海道及び札幌市の出捐と道内の多数の方々の寄付からなる三千万円を基本財産として、財団法人北海道文学館を設立し、文学資料の収集保存に務めるとともに、文学展、講演会、講座等の開催や出版を通じて道民の文学に対する理解と関心を深め、北海道の風土に根ざした文学の振興をもって北海道の文化の創造と発展に寄与しようとするものであります。
昭和六十三年十月
設立代表者 和田 謹吾
公益財団法人へ移行し、名称変更 – 2011(平成23)年4月1日
財団法人北海道文学館は、平成23年3月25日付で一般社団法人及び一般財団法人に関する法律及び公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成18年法律第50号)第44条の規定に基づき公益財団法人として認定を受けたので、平成23年4月1日、札幌法務局に公益財団法人へ移行する登記を行い、同日をもって「公益財団法人北海道文学館」へと名称を変更した。
池澤夏樹氏が北海道立文学館館長に就任 – 2014(平成26)年8月1日
公益財団法人北海道文学館(工藤正廣理事長)は2014年7月29日午後2時から、臨時理事会を開催し、文学者の池澤夏樹さんに北海道立文学館の館長就任を委嘱した。発令は8月1日付。
池澤夏樹さんは1945年、帯広市生まれ。父は小説家の福永武彦、母は詩人の原條あき子。帯広で6歳まで育つ。都立富士高校を経て埼玉大学理工学部物理学科に入学し5年在籍ののち中退。以後、翻訳、映画批評を手がけながら南太平洋を中心に世界各地への旅を重ねる。1975年からはギリシアに3年間在住。帰国後の78年に詩集『塩の道』(書肆山田)を出版。翌年、テオ・アンゲロプロス監督の映画「旅芸人の記録」の字幕を担当し、その後も同監督作品に関わる。87年小説「スティル・ライフ」で中央公論新人賞を受賞し、同作は同年下半期の第98回芥川賞を受賞した。93年沖縄県に移住、2005年フランスに渡り、09年から札幌市在住。95~2011年芥川賞選考委員、現在谷崎潤一郎賞、読売文学賞の各選考委員。日本芸術院会員。公益財団法人北海道文学館顧問。
工藤正廣氏が北海道立文学館館長に就任 – 2018(平成30)年7月1日
公益財団法人北海道文学館は2018年6月29日午後5時から、臨時理事会を開催し、池澤夏樹館長から申し出のあった館長退任を了承するとともに、当財団前理事長・詩人・ロシア文学者の工藤正廣さんに北海道立文学館の館長就任を委嘱した。発令は7月1日付。